執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役
2回前の本コラムで、「SMSによる情報発信」を取り上げた際に、インバウンドビジネスでSNSを利用する目的は情報発信と口コミ拡散にあると書きました。今回はその口コミ拡散についてお話しします。
旅行先決定に大きな影響を及ぼす口コミ
下のグラフは2000人の英米の旅行者に対し、旅行先を決めるにあたって何を参考にするかのアンケートをとった結果です。1位になったのは5割近くが挙げた「口コミでのおすすめ」でした。さらに、3位には「SMSに投稿された写真やビデオ」、5位には「SMSでのおすすめ」が入っています。1位は親戚や友人から直接聞いた口コミですが、あとの2つはSMS上での口コミになります。トリップアドバイザーのような口コミサイトよりも上でした。いずれにしろ、旅行会社やテレビの宣伝より、個人の口コミが旅行先を決めるにあたって大きな役割を果たしていることがわかります。
皆さんもきっと、家族や友人が旅先で投稿した美しい光景やおいしそうな食べ物の写真とそれについているコメントに影響されて、「次はここへ行ってみたいな」と思ったことはあるでしょう。個人旅行が主流になっている今では、企業が発信する情報を見て反応するより、口コミから目的地や宿泊施設、飲食店などを選ぶケースが多くなっているのです。実際、観光庁が発表している訪日外国人動向調査でも、旅行情報源として役立ったものとして、個人のブログやSNS、自国や日本在住の親族・知人などから得た口コミを挙げる人が大勢います。
2019年現在、世界中のSNS利用者の数は昨年から9%増加して34億8000万人となっています。そしてSNSを利用する人の10人に8人は、少なくとも年に1回、国内外を問わず旅行へ行くと言われています。SNSで口コミを拡散してもらうこと、すなわち、ユーザーコンテンツ(UGC)を増やすことはインバウンド施策を進める上で非常に有効なのです。
口コミを促すためにやっておきたいこと
旅行者個人が自身のSNSから発信する口コミは、特定のページに蓄積されるわけではないので、時間の経過に伴い流れていく情報になります。しかし、友人や同僚、親戚などリアルにつながりのある人による「生の声」ですから、影響力は大きいのです。それではどうしたら口コミを促すことができるでしょうか。SNSに投稿したくなるのはたいていが、人に見せたい、自慢したいと思えるような写真が撮れた時ですから、まずはその場所でお勧めの「写真スポットを用意」したり、「絶景が撮れるタイミングや場所の周知」が有効です。その場で投稿できるようにWiFi環境を整えることも大事ですし、商業施設や飲食店だったら、口コミを書けば特典クーポンをもらえるといったメリットを用意するのもいいかもしれません。ハッシュタグを使ったフォトコンテストなども効果的でしょう。また、個人のSNSのなかには、多くのファンを持つインフルエンサーがいて、多大な影響力を持ちます。彼らとうまく手を組むことができれば飛躍的に認知度を上げることも可能です。
また、トリップアドバイザーや大衆点評(中国版食べログ)に代表される口コミサイトに投稿された口コミに関しては、個人のSNSよりも不特定多数の目に触れるもので、拡散力もさらに大きいと言えます。口コミサイトへの投稿を利用者に促す場合、押し付けるようなことをするとそれが悪い口コミになってしまう可能性があるので気をつけましょう。ある体験型ツアーでは、ツアー中に撮った写真のデータを参加者にメールで送る際に、「よければ口コミを書いてください」と一文入れておくそうです。楽しかった思い出の写真が送られてきたら、良い口コミを書きたくなりますね。
外国人目線を理解する最高のツール
さて、口コミが拡散されるようになったら、次はその口コミを使ってマーケティング調査を行いましょう。インバウンド施策には外国人目線が欠かせませんが、口コミはそれを手に入れる最高のツールの一つなのです。良い口コミを読むと、自分たちでは気づかなかったその場所、施設、商品などの魅力に気づかされることがあります。一方、悪い口コミからは改善点を洗い出しましょう。口コミの一つ一つに一喜一憂するのではなく、それら生の声に共通するものを見つけ出し、そこから得られる様々な示唆を次の施策に生かしていくのです。
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村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役
兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。著書に「インバウンドビジネス入門講座」「インバウンドビジネス集客講座」(いずれも翔泳社)がある。