執筆:やまとごころ編集部
日本屈指の観光地のひとつ、東京・浅草の雷門から徒歩2分の場所に位置するお好み焼き店「浅草つる次郎」には1日20組以上もの外国人が来店する。浅草の個人飲食店の中でもいち早くインバウンド対策に取り組み、“外国人フレンドリー”な店として知られるようになった同店には、英語を話すスタッフが1人もいない。そんな中、外国人の誘客に成功した背景にはどのような取り組みがあったのか。接客面と集客面の両面から探っていこう。
外国人の来店で売上が2倍に!
浅草つる次郎が外国人を積極的に受け入れるようになったのは、東日本大震災があった2011年。震災後、それまで多くの外国人観光客で賑わっていた浅草に外国人の姿が見られなくなったことで、浜田圭二店長は「もう一度浅草に来てほしい」という思いから、インバウンド対策を意識的に行うようになった。具体的には英語表記のメニューの作成や、ウェブサイトの多言語化、スタッフが外国人とのコミュニケーションに使う「指差し英会話」の作成などの取り組みを行った。その結果、同店の売上は年間5〜10%の伸び率を保ち、2010年と2017年の売上を比較するとおよそ2倍に増えたという。年々上積みされている売上は、外国人の来店によるものではないかと浜田氏は分析している。
“普段使い”のサービスで効率よく外国人を接客
外国人を接客する際に最も気を配っているのは、普段使いできるサービスかどうかだという。例えば同店では、お客様と料理が写ったスナップ写真を撮影・プリントし、その場でプレゼントするというサービスを提供している。スタッフは自分のスマホで撮影をし、店のLINEグループに写真をアップ。パソコンの近くにいるスタッフが写真を読み込み、プリントするという流れで、2分以内にお客様の元へ写真を届けている。
このほかにも、メニューや焼き方、自分で焼くか、お店に焼いてもらうかといった質問なども全て英語で用意し、全席に設置することで、英語メニューをわざわざ取りに行く手間を省いている。メニューにはお好み焼きの「焼き方動画」にリンクしたQRコードを掲載しており、初めて訪れた外国人でも自分のスマホで動画を見ながらお好み焼きを焼くことができるよう工夫が施されている。
このように、外国人への対応で日本人のお客様へのサービスが疎かになってしまうことがないように、できる限り効率化を図り、どのスタッフが担当しても同じレベルとスピード感で接客できるよう徹底している。
動画によるPRで得られた意外な集客効果とは?
写真撮影のサービスは集客にもつながっている。プレゼントする写真には店名を載せ、裏には浅草つる次郎の口コミサイトのページにリンクされたQRコードを掲載。これにより、来店したお客様の周囲の方への紹介や口コミの投稿を促している。同店のウェブサイトに掲載している、シズル感満載の動画によるPRも集客に一役買っている。外観や店内の様子、スタッフがお好み焼きを焼くシーンなどを1分間に凝縮した動画は、外国人に情報を届けるという効果だけでなく、外国人を案内する日本人にも重宝されている。安心して外国人を連れて行ける店なのかを、あらかじめ知ることができるからだ。実際に、浅草つる次郎を訪れる外国人のうち、日本人の案内役がいる割合は半分近くを占めている。
インバウンドのニーズが「モノ消費」から「コト消費」へと急速に移行する中、お好み焼きを自分で焼く、もしくは目の前で焼いてもらうという体験は外国人にとって目新しく、写真や動画をSNSにアップしたり、思わず口コミしたくなる要素となるだろう。こうした店舗の特徴をうまく利用して集客し、サービスの効率化を図りながらも「おもてなし」の心を忘れない浅草つる次郎の取り組みには、個人経営店がインバウンドを呼び込むためのヒントが詰め込まれている。
取材協力:浅草つる次郎
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やまとごころ編集部
株式会社やまとごころ メディア・コンテンツ事業部
2007年より、インバウンドB to B 支援のための日本最大級のポータルサイト「やまとごころ.jp」を運営。「日本のインバウンドを熱くする」をモットーに、長年にわたりインバウンド業界に携わり続けた圧倒的な情報量と知見を活かし、インバウンド関連の最新情報を、日本全国のインバウンドに携わる企業・自治体の皆様に向けて発信し続けている。
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