執筆:やまとごころ編集部
京都駅から電車やバスで20分、五条通り近くに位置する旅館「京町家 楽遊 堀川五条」は外国人利用率が75.6%という、訪日客に人気の高い京町家旅館だ。同旅館は2016年6月に開業し、そのわずか1年半後に発表されたトリップアドバイザーの「外国人に人気の旅館ランキング」で、見事1位を獲得した。短期間でインバウンド誘客に成功し、実績を残してきた背景にはどのような戦略があるのか、詳しく紹介する。
コンパクトな空間を、ありのままに受け入れてもらうための工夫
伝統的な町家建築を新築で再現した楽遊は、全7室(6畳4室、4畳半3室)の非常にコンパクトな作りになっている。この旅館では、町家建築ならではの魅力を楽しんでもらうために、さまざまな工夫が施されている。例えば、湯飲みやポットは部屋に置かず、飲み物はすべて館内の共有スペースに置く。冷蔵庫や金庫も押し入れに収納し、何か必要なものがあれば貸し出す。こうしたスタイルで、客室の設備を最小限に抑え、シンプルに見せている。施設面での工夫はもとより、施設案内時に「ここは京都の町家の典型的な形をしています。つまり、それは小さいことを意味しています」と説明を入れたり、2階へ上がる時に「天井に気を付けてください。ほら、話した通り小さいでしょ?」とユーモアを交えてありのままの姿を伝え、それを体験してもらうなど、サービス面でも工夫をしているという。
「旅先で出会った最初の親切な人」になるために、チェックインには最低30分
スタッフは、ゲストが不便に感じていることはないかを常に確認し、可能な限り解消するように努めている。チェックインにかける時間は最低でも30分。単なる事務的なやりとりではなく、ゲストが何をしたいのかを聞き出し、個々のニーズに合った情報を紹介している。ときには、近隣のお店までスタッフがゲストを案内することもある。例えば旅館の向かいには銭湯があるため、宿泊客にはその入浴券を無料で渡しているが、銭湯になじみのないゲストに対しては脱衣所までついていき、銭湯を利用するためのノウハウを丁寧に説明している。宿周辺の情報を記した手書きの多言語マップを渡し、そこに記載された飲食店にスタッフが連れて行くこともあるという。このほかにもゲストが持参したぬいぐるみに花を持たせて部屋を飾ったり、朝食のパンや紅茶の中にゲストのお気に入りがあれば確保しておき、あとで個別に渡してあげるなど、細やかな気配りを欠かさない。現場マネージャーの山田氏による「旅先で出会った最初の親切な人になってほしい」という教えをスタッフ一人一人が理解し、実践していることこそが、楽遊の最大の特徴となっている。
利用者から高い評価を獲得する2つのポイント
創業わずか1年半で高評価を獲得したポイントは2つある。まず1つ目は何よりも「人」。前述のとおり、ゲストのニーズに合わせたスタッフの細やかな気配りの積み重ねが満足度向上に繋がっているのは間違いない。
2つ目のポイントは「町とゲストの橋渡し」にある。「よそ者に厳しい」とも言われる京都の地で、近隣施設への挨拶に何度も足を運び、地道に関係性を築いてきた。飲食店店主との会話の中のちょっとした言葉からニーズを汲み取り、飲食店の多言語メニューを作成したこともある。それにより、外国人旅行者は本来訪れることのなかったローカルのお店での体験が可能になり、一方でそのお店の売上にもなる。相互にメリットのある橋渡しを行ってきたからこそ、高い評価へと繋がっているのだ。
楽遊ではチェックアウト時に、ゲストからメッセージ付きのポストカードやお土産を贈られることも珍しくないという。宿泊施設でありながら、人と人とが心を通わせられる地域のプラットフォームとしても機能するそのあり方には、インバウンドに関わる他業種にも応用できる点が多いのではないだろうか。
取材協力:京町家 楽遊 堀川五条
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やまとごころ編集部
株式会社やまとごころ メディア・コンテンツ事業部
2007年より、インバウンドB to B 支援のための日本最大級のポータルサイト「やまとごころ.jp」を運営。「日本のインバウンドを熱くする」をモットーに、長年にわたりインバウンド業界に携わり続けた圧倒的な情報量と知見を活かし、インバウンド関連の最新情報を、日本全国のインバウンドに携わる企業・自治体の皆様に向けて発信し続けている。
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