執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役
インバウンドはどこから始めるべきか
2017年の訪日外国人数は2,869万1,000人。今年2018年は3,000万人超、そして、2020年には4,000万人突破を見据える中で、今後重要な鍵は「地方」です。講演などで日本各地へ伺う機会が多くありますが、そんな中でよく訊ねられることがあります。「インバウンドに取り組みたいのだが、何からやったらいいのだろうか?」と。多言語のサインを整えたり、語学研修を実施したりの「受け入れ環境整備」と、外国人観光客に自分の地域や施設に来てもらうための「集客」。どちらを先に始めたらいいのか、今回はこんな投げかけからコラムをスタートさせたいと思います。
準備を整えるだけでは、誰も来てくれない
地方を訪れた際、宿泊施設や小売店の経営者から、「うちはまだ受け入れ態勢が整っていないから、外国人観光客の受け入れはやりたくない」という声が時折、聞こえてきます。
ある道の駅では、外国人観光客を受け入れていこうと、免税店になりました。ショッピングカウンターや、レストラン、駐車場、トイレなど施設内のサインも英語、中国語表記を整え、指差しツールも準備。スタッフへの語学研修も実施するなど、受け入れ環境を整えました。しかし、実際には免税店になってから数カ月経つものの、その施設を訪れた外国人観光客はゼロ。当然のこと、せっかくなった免税での売り上げもなく、張り切って語学研修に励んでいた現場のスタッフ達のやる気も萎えてしまったということです。
どんなに受け入れ環境の整備だけをやり続けても、肝心の外国人観光客が来ないのでは、ビジネスになりません。うちにはインバウンド客は来ないから、もう、止めよう……、そんな意見が出てくるのも時間の問題です。
自社のサービスの存在を知らせることで集客
大事なのは、外国人観光客に自分たちの地域や施設に足を運んでもらい、実際に対応をしながら受け入れ態勢をスピーディーに整えていくこと。接客しなければならない切羽詰まった状態になれば、身振り手振りでもどうにかなるものです。
いつも行列ができている京都の団子屋さんのおばあさん、どれを何本欲しいかの注文や、歩道を行く人の邪魔にならないよう端に寄って並んでくれと、日本語と身振りだけで外国人観光客とやりとりをしています。その姿を見るとつくづくその通りだと感じます。
自分たちの存在をしっかりと外国人観光客に伝え、“訪れてみたい”“体験してみたい”と感じてもらえるようにアピールしていく。インバウンドをスタートさせる際には、まずはそこに全力投球していくことが大切です。
集客の全体像をしっかり掴む
それでは、集客はどう展開したらいいのか———。それには、集客の全体像をしっかりと把握してから、スタートさせることが重要なポイントとなります。
下記の表のように、インバウンド集客には数々の手法がありますが、集客するためだからと、闇雲にあれもこれもと実施しても、コストがかさむばかりです。
集客に取りかかるにはまず、「1:インバウンドを実施する目的・ターゲットを明確にする」。目的が曖昧だと、何か問題が発生した場合、諦めることになりがちです。ターゲット市場を明確にせずに集客を実施するのは、目を閉じたまま大海に網を投げているようなものです。目的・ターゲットを明確にし、ブレないように皆で共有したら、「2:そこに向けた集客手法・施策を選択」「3:その施策に最適と思われる目標・KPIを設定」。そのうえで「4:実践と改善を繰り返していく」。この4つのポイントこそが集客の全体像であり、いずれもが欠かせないものです。
次回は、ベストな施策を選ぶ上での顧客像の設定とタイミングに合わせた集客方法についてお伝えします。
-
村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役
兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。著書に「インバウンドビジネス入門講座」「インバウンドビジネス集客講座」(いずれも翔泳社)がある。