執筆:やまとごころ編集部
1986年、国際観光モデル地区に指定された直後に、国際観光都市宣言をした岐阜県高山市。それ以降、インバウンド施策の先駆者として努力を重ね、現在は人口9万人に対し、年間約46万人もの訪日客が宿泊している。これほどまでに多くの外国人の心を惹きつけて離さない高山市が行ってきた、インバウンドの取り組みとはどのようなものか、その秘策を紐解いた。
外国人観光客への訴求には「今あるもの」で勝負する!
「地方自治体などの組織が陥りがちなのは、外国人向けの新しいコンテンツを作らなければいけないと思い込むことです」と語るのは、長年同市で海外戦略を担ってきた田中明氏。実は、そのような考えは必要なく、地域特有の風習や習慣といった「普段の暮らし」を見せることが最強のコンテンツになるという。
具体的には食べ物やお酒、お祭りといったその地域ならではの特徴を見定めた上で、何を一番見せたいのかを絞り込み、外国人へ訴求していくことが重要だ。次に必要なのは、外国人の視点を理解すること。高山市では在日外国人を招待し、モニターツアーやファムトリップを行い、リサーチを重ねている。誰にどのコンテンツを発信していくべきかを掴むことで、対象エリアを絞った効果的なプロモーションが可能になるのだ。
コンテンツが決まれば魅力を発信。PRにおける高山市のこだわりとは?
海外プロモーションを行う上で高山市が最も大切にしているのは、「人と人とのつながり」だという。例えば高山市は海外の旅行博に積極的に出展し、現地の旅行会社やメディアと情報交換を行っているが、その際に市長自らが出向いて挨拶に行く「トップセールス」を大切にしている。
同市では、市長がまず挨拶をした上で、関心を抱いてくれた相手に対し職員がフォローしていくという連携プレーで地道な努力を続けてきた。国内でも、市長や職員が東京へ行く際は、JNTOの理事長や観光庁長官への挨拶を欠かさない。その結果、高山がFacebookで発信した情報がJNTOの公式アカウントでシェアされたことで、リーチ数が一瞬にして20万以上に上ったこともあった。
インフラ整備のコンセプトは「一人歩きできる街づくり」
外国人の受け入れにあたり、「外国人が一人歩きできる街づくり」をコンセプトにしている高山市。そのために無料Wi-Fiの整備も進めてきた。登録をすれば7日間無料でインターネットに接続できるため、情報収集はもちろん、SNSで街の魅力を発信してもらうことで高山のPRにも繋がる。
さらに、災害発生時の緊急情報を提供できるほか、登録時の情報を高山市の施策に反映させるなど、マーケティングにも活用している。そのほかにも、多言語MAPやパンフレットの作成も行っており、パンフレットは、国によって興味関心が異なることを踏まえ、表紙やコンテンツにも変化を加えているという力の入れようだ。
実績を出すカギは、民間企業はもちろん、市民一人一人を巻き込むこと
高山市では、民間企業と同様に実績を出すことに焦点を当てているが、現在は特に宿泊客の拡大に注力している。宿泊してもらうことで宿はもちろん、飲食店、土産物店、観光施設などが潤い、”稼げる地域”になれるからだ。
また、インバウンドに積極的な民間企業との連携を行い、海外セールスの際に同行してもらうことで具体的な「商材」につなげている。また、民間企業だけでなく、個人レベルでも、子供からお年寄りまで、外国人観光客に臆することなく接する姿が見受けられる。市民一人一人が喜びを感じながら対応できるか否かも、成功の鍵を握っているのだ。
「インバウンドに関しては、5年後、10年後を見据えて、計画を立てて実行することが必要不可欠です」と語る田中氏。訪日宿泊客「年間46万人」という数字は、官民一体となって長年地道に取り組んできた証と言えるだろう。
取材協力:岐阜県高山市
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やまとごころ編集部
株式会社やまとごころ メディア・コンテンツ事業部
2007年より、インバウンドB to B 支援のための日本最大級のポータルサイト「やまとごころ.jp」を運営。「日本のインバウンドを熱くする」をモットーに、長年にわたりインバウンド業界に携わり続けた圧倒的な情報量と知見を活かし、インバウンド関連の最新情報を、日本全国のインバウンドに携わる企業・自治体の皆様に向けて発信し続けている。
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