執筆:やまとごころ編集部
城崎温泉の外国人宿泊者数は5年で40倍に
兵庫県北部の豊岡市に位置し、日本の美しい原風景を望むことができる城崎温泉は、近年、外国人観光客が急増していることで注目を集めている。この地で”正装”と呼ばれる浴衣をまとい、外湯めぐりを楽しむ外国人をちらほら見かけるようになったのは、今から約5年前。その後、右肩上がりで急伸するインバウンド需要は、データに基づいたマーケティング戦略によって生み出されている。
城崎温泉が外国人の受け入れを意識し始めたのは、2008年に世界的に有名なガイドブック『ロンリープラネット』で紹介されたことだった。これを受けて、豊岡市は外国人観光客の増加を期待したが、実際は2011年になっても増えることはなかった。
そこで、2013年ころから本格的なインバウンド戦略に力を入れ始めることとなる。まず、市では国内外の観光客誘致と情報発信を担う「大交流課」を設置した。総務省の「地域おこし企業人」の制度を利用し、旅行会社から社員を派遣してもらうなど、民間の力を取り入れて海外戦略を進めていく。その結果、2011年に1,118人だった城崎温泉の外国人宿泊数は、2016年には44,648人となり、5年間で約40倍に急増した。
データ分析に基づいた戦略が、外国人誘致のカギに
次の戦略として考えたのは、情緒溢れる城崎温泉街で浴衣を着て出かけ、外湯めぐりをしてもらうという「体験」を売りにすることだ。これに基づいた、外国人の誘客戦略を検討し始める。
豊岡市がまず目をつけたのは、市内の宿泊施設から提供される、外国人観光客の宿泊数データだ。このデータに加え、近年頻繁に発表されるインバウンド関連のデータを分析し、欧米豪の個人客をメインターゲットに絞り込んだ。豊岡市には、団体客を収容できる大規模旅館が少なく、中小規模の旅館が多いことから、個人旅行のシェアが高い欧米豪の個人客に狙いを定めたのだ。その戦略が功を奏し、直近のデータでは欧米豪の宿泊者数が43.5%と、半数近い割合を占めている。
グローバルな視点でニーズを捉え、ローカルの魅力を発信
具体的に行った施策には、英語版の宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」の運営や、世界各国の旅行博への参加、フリーWi-Fiの整備、観光案内所の運営、PR動画の制作、Webマーケティングの強化などが挙げられる。
世界各国の旅行博に出展し、現地旅行会社へのセールスなどを通して彼らとコミュニケーションをとるなかで、豊岡市は行政であるがゆえに、商品を持っていないことを痛感。そこで、2016年には豊岡版DMO(※)「豊岡観光イノベーション(TTI)」を発足し、旅行商品の販売や海外への営業、外国語での宿泊予約などを手がけ、2017年1~5月には、「Visit Kinosaki」経由での予約が前年の約3倍に増えるなど、顕著な実績を上げている。
城崎温泉以外のコンテンツを探り、回遊を促す仕組みづくりがスタート
豊岡市は、2020年に10万人泊のインバウンド観光都市を目指している。そのためには現在の平均宿泊日数”1.4泊”をさらに伸ばす必要があり、市内を回遊してもらうことが重要だと考えた。豊岡市は城崎温泉以外にも、コウノトリの野生復帰に取り組む地域としても有名で、古い町並みが残る城下町の出石など、魅力あるコンテンツが存在する。また、シーカヤック体験ツアーや浴衣着付け体験を販売するなど、着地型ツアー&プログラムの拡大にも意欲的だ。
TTI経営管理部の川角洋祐氏は、今後こうしたコンテンツを販売していく上で、データを重視し、顧客を理解することが重要だと語る。そのため、フリーWi-Fiの登録時に利用者の属性情報を取得し、滞在期間中の行動分析をすることで、国別や年代別のニーズを把握しているという。
こうしたデータの分析・活用による地道な取り組みが実を結び、目覚ましい成果を挙げている豊岡市は、「10万人泊のインバウンド観光都市」の実現へ向けて、着実に歩みを進めている。
※「Destination Management/Marketing Organization」の略で、観光地域が一体となって観光マネジメントをするために形成される組織体を指す。欧米で普及するシステムで、豊岡版DMOでは、豊岡市、但馬銀行、但馬信用金庫、全但バス、高速バス大手のWILLER(ウィラー)株式会社などが結集し、官民一体で組織されている。
取材協力:一般社団法人豊岡観光イノベーション
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やまとごころ編集部
株式会社やまとごころ メディア・コンテンツ事業部
2007年より、インバウンドB to B 支援のための日本最大級のポータルサイト「やまとごころ.jp」を運営。「日本のインバウンドを熱くする」をモットーに、長年にわたりインバウンド業界に携わり続けた圧倒的な情報量と知見を活かし、インバウンド関連の最新情報を、日本全国のインバウンドに携わる企業・自治体の皆様に向けて発信し続けている。
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