執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役
新年度を迎えて、新しい会社や部署でインバウンドビジネスに取り組むことになった方もいらっしゃると思います。インバウンドという言葉はもはや日常的に使われているので、外国人観光客を指すことはみなさんわかっていても、いざ始めようとすると、どこからスタートしていいかわからないということもあるかもしれません。今回はそういう方のために、基本となる受け入れ態勢の話をしたいと思います。
外国人観光客が最も困ったことは?
訪日外国人へのアンケートで、旅行中に困ったことを挙げてもらったところ、最も困ったことは「コミュニケーションがとれない」で、3番目に「多言語表示の少なさ」が入っています。これは団体旅行よりも個人旅行が増えた現在だから、なおさら深刻な問題ともいえます。
なぜなら、団体だったら通訳やガイドがついているからそれほど不自由は感じなくても、個人旅行だとすべて自分でやらなければいけないからです。そんな旅行者がみなさんのお店や施設にやってきたら、さあ、どう対応しますか。
受け入れ態勢の基本は3つ
受け入れ態勢を考えるとき、大事なのは「組織」「インフラ」「教育」の3つです。
外国人観光客をひとりの従業員、ひとつの施設だけで受け入れようとすると大変なことになります。そこでまず、「組織」での受け入れを考えてください。施設全体、エリア全体で迎え入れるのです。
「インフラ」も整える必要があります。外国語による看板やPOP、クレジットカード決済の対応、ATMの設置やWi-Fi環境の整備などです。
3つ目の「教育」は、現場で外国人観光客と接するスタッフを育成しなければいけないということです。ここでは、この教育の観点のうち、特に質問に挙がることが多い語学についてみていきましょう。
成果を上げる近道は意識+多言語ツール
外国語での対応は、下の図のピラミッドにあるように、三段階で乗り越えていくといいでしょう。
根底となるのは「意識」。外国人観光客を歓迎したいという意識を持つことです。「歓迎したい」「おもてなししたい」という気持ちさえあれば、単語とボディランゲージでも十分に対応することはできます。逆に避けたいのは、「私に話しかけないで」ビームを発信することです。こうなると、コミュニケーションは端から成り立ちませんよね。
日本人に対して流暢な英語を期待している外国人観光客はいません。ですから、恥ずかしいとか、通じなかったらどうしようとかいった考えを捨て、まずは歓迎の気持ちを表すために、笑顔で声をかけること。そういう意識を持つことが最初のステップなのです。
その上にあるのが「多言語ツール」です。外国語によるメニューや案内板、翻訳アプリをダウンロードしたタブレットなどを用いて、密なコミュニケーションを取れるようにします。意識だけでは行き届かないところをツールで補うことによって、喜ばれる対応につながるでしょう。
そして最後に来るのが、「語学」の習得です。これは一朝一夕にはいきませんが、先にも書いたように、ネイティブ並になる必要はありません。間違うことを恐れずにどんどん話してみることがなにより大事で、その行動を支えるのも「意識」です。
日本人の外国人アレルギーはかなり強いものがあるといわれます。そのアレルギーを中和させるための最低限の受け入れ態勢を整え、インバウンドビジネスに臨んでください。
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村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役
兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。近著に「インバウンドビジネス入門講座 第2版 訪日外国人観光攻略ガイド(翔泳社)」がある。