執筆:太田正隆/JTB総合研究所 主任研究員
秋も深まった10月下旬、冬の気配がする北海道阿寒へ行った。その前には帯広、釧路と回り数年振りの阿寒湖へ。夕方の気温は摂氏0度に近い、東京の暑さが嘘のよう。
やや遅い食事をしてから集合場所の湖畔の船着き場へ行くと、既に大勢の観光客が集まっている。気温はマイナス1度。目的は数年前に完成した「阿寒湖アイヌシアター イコロ」で開催される「イオマンテの火祭り」へ行くことである。
通常のイベントにしては夜の9時開始という遅い時間であることと、氷点下の気温の中わざわざ行くような観光客がいるのか半信半疑で向かった。そんな中でもアジア等からの訪日観光客は元気である。韓国語、中国語が飛び交っている。しかも若い観光客が多い。
このイベントの仕掛けはこうである。「イオマンテの火祭り」を専用のシアターで見せる前に、観光客自身も火祭りに参加。20時30分に集合場所へ行くと、アイヌの衣装をまとった若者がおごそかに火を起こし松明に火をつけ神に捧げる。
松明を受け取った観光客は順序よく火をつけ行列に参列して、先頭を行くアイヌの若者に付いて晩秋の阿寒湖の町中を歩いて行く、その数50人以上。
20分ほど歩いて行くと何やら大きな火とアイヌの長老が待っていて、「ようこそイオマンテの火祭りへ!」とよく通る声で歓迎する。観光客はそれぞれ持っていた松明を立てかけて、神妙な面持ちで話を聞く。とはいえ日本語だがアジアからの観光客も案外楽しそうに写真等を撮っている。
その後「阿寒湖アイヌシアター イコロ」へ案内されて料金を支払い劇場へと入っていく。劇場内は100席以上の座席がある。ステージが明るくなりアイヌの衣装を纏った人々が次々と現れ「イオマンテの火祭り」が始まる。
最後は、観光客を巻き込んでの誰にでも踊れるようなシンプルなダンスに誘い、言葉は関係なく場内は一つになる。
踊る人、それを見る人、日本人、アジアからの訪日外国人が一体化した夜だった。氷点下の寒空と言葉は関係なく参加者が体験型観光を通じて一体化した楽しい仕掛けである。
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太田正隆JTB総合研究所 主任研究員
インバウンド及びコンベンションの企画運営を始め、企業ミーティング、インセンティブ、トレードショー、イベント等に長年従事。各国のMICE事情、地域のMICE戦略策定、MICEビジネス構築、誘致計画、プロモーション計画の策定やマネージメント、マーケティング等、日本における数少ないMICEのエキスパート。