【専門家コラム Vol.7】増え続けるFIT獲得のために

コラム

2016/10/20

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2016/10/20

【専門家コラム Vol.7】増え続けるFIT獲得のために

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執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役

初めて海外旅行へ行く日本人はたいてい添乗員や現地ガイドの同行するパッケージツアーを選びます。ところが、何度も海外に出かけていくうちに旅慣れて、拘束の多いツアーでなく、エアとホテルだけ決めて、旅行内容は自分でアレンジする、いわゆるフリープランや、すべて個人で手配する旅行を選ぶ人も増えていきます。訪日客でも同じことがいえるでしょう。

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2016年4~6月の訪日客の旅行手配方法をみると、個人旅行パッケージ利用と個別手配の合計が全体で77.7%となり、もともと個人旅行の多い欧州や米国はもちろん、アジアでも韓国、台湾、香港、ベトナム、インドなどでは90%を超えているのです。団体旅行というイメージの強い中国でさえ、団体ツアーに参加しているのは36.4%にすぎません。つまり、現在日本を訪れているのはFIT(Foreign Individual Tourist)、外国からの個人旅行者である割合が非常に高いということです。

口コミ利用と的確な情報発信

FITの大きな特徴といえば、なんといっても情報収集力です。彼らは旅行前や滞在中にインターネットを通じて積極的な情報収集を行い、旅の計画を立てます。そのため、迎える側としては、まずは口コミの拡散が重要になってきます。

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たとえばトリップアドバイザーに「ここでしか見られない」という風景写真がアップされていれば興味を持ってもらえるし、訪れた人たちにフェイスブックやツイッター、インスタグラムなどのSNSで、画像付きで「日本の◯◯が最高!」といった口コミをしてもらえるような情報発信を工夫するのも欠かせません。
  
予約サイトのエクスペディアによると、宿泊施設の紹介ページに写真の掲載数が30枚以上だと予約率が高まり、バスルームの写真は必須とのことです。いかに画像の有無が集客において違いを生み出すかの好例でしょう。

二次交通の充実をはかる

訪日客へのアンケートの中で、滞在中にあると便利な情報に挙がる2トップが「無料Wi-Fi」と「交通手段」です。
  
前者は旅行中の情報収集をスマホで行う人が圧倒的に多いためであり、後者は、定番の観光地よりも、外国人の少ない場所へ行きたがるFITならではの旅行スタイルに欠かせないものともいえるでしょう。すでに有名観光地を訪問済みのリピーターであることに加え、SNSでまだあまり知られていない日本を紹介して、たくさんの「いいね!」をもらいたいという欲求が、彼らにはあるのです。
  
おのずと公共交通機関の利用が多くなりますから、大事になってくるのが二次交通の充実です。たとえば、乗り継ぎが必要な場合、電車が到着する前に最終のバスが出てしまったというようなことにならないような配慮も求められます。また、複雑な日本の鉄道網を使いこなすための便利な乗り換えアプリも重宝されるでしょうし、鳥取市の1,000円タクシーのように外国人観光客に向けに3時間で1,000円という格安な周遊タクシーを運行したり、乗り合いタクシーの導入なども考えたい施策です。

テーマ性と双方向性

一つのテーマを持って日本を旅する人たちもFITに多く見受けられます。たとえば、季節の花を求めての公園巡りとか、アニメのロケ地巡りとか。
  
後者でいえば、江ノ電の鎌倉高校前駅に台湾の旅行者が数多く訪れて写真を撮るのは有名な風景になりました。台湾で大人気の『スラムダンク』の舞台となった場所だからですが、これに一役買っているのが、江ノ電が2013年から始めたサービス。台北近郊のローカル線である平渓線と提携して、互いの一日乗車券を交換してくれるというもので、現時点で台湾からの利用客が圧倒的に多いそうです。
  
同様の効果を求めて、2016年8月には天竜浜名湖鉄道が、台湾の観光地日月潭へのルートを走るローカル鉄道、集集線との姉妹協定を締結しました。こうした双方向の視点でのキャンペーンもFIT獲得には有効な手段になります。

  • 村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役

    兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。近著に「インバウンドビジネス入門講座 第2版 訪日外国人観光攻略ガイド(翔泳社)」がある。

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