日本人が好きな温泉は、外国人にも人気の高い観光資源のひとつです。観光庁「訪日外国人消費動向」によれば、「温泉」は、訪日前に最も期待していたことのうち、「日本食を食べること」「ショッピング」「自然・景勝地観光」」についで、4番目の順位になります。
しかし、今回の訪日旅行で体験したことのうち、「温泉」を挙げている割合が37.9%なのに対し、2回目に日本を訪れた際に「温泉に入りたい」と回答している割合が43.4%。人気がある割には実際の行動に移せていないことが、このデータから読み取れます。
温泉体験はリピーターを増やすためのキラーコンテンツ
温泉体験ができていない理由のひとつに、外国人旅行者の観光ルートが大都市圏に集中していることが挙げられます。現在の訪日観光のメインは、東京・京都・大阪を結ぶゴールデンルート。箱根や熱海はありますが、日本有数の温泉地はゴールデンルートから離れた地域が大半。温泉は宿泊地とセットになることが多いですから、温泉に行ってみたいと思っても、スケジュールの都合上、泣く泣く断念となることが多いのでしょう。
初めての訪日旅行の場合、ショッピングや景勝地巡りは外せません。ですが、訪日旅行2回目以降となるとこれらの割合は徐々に低くなり、温泉入浴のような「その場に行って体験できること」の割合が増えていきます。温泉を一度体験したら、またリピートしたいと思わせる仕組みづくりやおもてなし、訪日中に体験できなくても次に日本を訪れた際には入浴してみたいと思わせる期待値の上げ方などが、インバウンド施策としてより一層必要となってくるでしょう。
訪日回数が増えるにつれ、旅行会社が企画するパックツアーより、航空券や宿泊を個人で直接手配する個人旅行者(FIT:Foreign Independent Travel)の割合が増えていきます。旅のスケジュールを自由に組み立てられるFITは、自分がやりたいことを優先して行き先を選びますから、これまでゴールデンルートに集中していたインバウンド観光の行き先が日本全国に広がります。温泉は、体験コンテンツとしてはもちろんのこと、地方におけるインバウンド観光の拠点としてより一層機能していくと思われます。
まだまだ情報提供がたりない温泉入浴のルール
- 今後増えていくことが予想される「温泉×FIT」という組み合わせに対して、どのような対策が必要となってくるでしょうか。まずは、温泉の入浴ルールとマナーを訪日外国人旅行者にわかりやすく伝えることだと思います。
外国人にとって温泉とは未知の文化体験そのもの。多くの日本人にとって温泉は子どものころからなじみ深いものですが、訪日外国人旅行者の多くを占めるアジア圏をはじめとして、そもそも湯船につかる習慣自体がない地域の方々が大半です。「湯ぶねに入る前にかけ湯をすること」「湯ぶねの中にタオルを入れてはいけないこと」「湯あがりは体を拭いてから脱衣所へ向かうこと」「食後や飲酒後の入浴を避けること」など、入浴に関するルールがわからないのも当然でしょう。
これらを理解してもらうためには、丁寧なコミュニケーションが必要です。Webサイトでの情報提供が十分であれば、宿泊先の候補として選ばれる可能性が上がるでしょうし、施設内のポスターやパンフレットが充実していれば、利用者の疑問や不満も解消されやすくなります。これらのツールには英語や中国語など多言語対応はもちろん、言語だけでなくイラストや写真などのビジュアルでの訴求が必要です。また、外国人観光客の模範となるように日本人利用者向けの啓蒙活動も重要な要素のひとつでしょう。
訪日外国人旅行者の希望を叶え、不満をひとつずつ解消していくこと。インバウンド施策に近道はなく、このような地道なアクションの積み重ねが大事なのではないでしょうか。