2016年6月までの訪日外国人旅行者数が1,171万人(前年比28.2%増)を記録しました。下半期はピークとなる夏休みを含むため、その倍以上が海外から日本を訪れることが想定され、年内に2,000万人の大台を超えるのは確実です。今回は、そのなかで起きている様々な変化を見ていきたいと思います。
独自性を明確に
まずは、これまでもお話ししたように、旅行形態が団体から個人へと変化し、アジアでは特にリピーターが増えている点です。そこで求められるのが、リピーターにも響くコンテンツの発信。たとえば、古民家や古い街並みが地域の売りだとしても、なんども訪日している彼らは、他の地域ですでに経験している可能性があります。では自分の地域は他と何が違うのか? そこを明確に打ち出すことが、ますます重要になってきます。
コト体験をフックにした集客
また、人々の購買意欲はなくならないけれど、モノを買うよりもコト体験がより重要な位置を占めるようになっています。ご自身でも経験があると思いますが、海外旅行に出かけた際、その土地の人たちとの触れ合いが、有名な観光地の見学よりもよほど記憶に残ったりします。外国人観光客は、日本人の日常を経験し、生活感を味わうことを求めているのです。
モノを買う際でも、たとえば酒蔵を訪れて酒造りの過程や歴史を知り、試飲をするといった体験を通じて購入する場面も増えてきました。コトは大きな儲けになるわけではありませんが、コトをフックに集客し、物販やその他で儲けるというのがこれからの方向性でしょう。
日本好きじゃない方も日本へ来る時代
上記の変化を踏まえつつ、他にも注目すべき動きがあります。最近、長らくインバウンドの旅行会社やゲストハウスを展開されてきた方々と話をする機会があったのですが、その中で一つ共通した見解がありました。それは「日本好きじゃない方も日本へ」ということです。
つまり、まだ外国人観光客が今ほど多くなかった頃、日本に来ている外国人観光客は基本的に日本びいきでした。日本食が好き、日本のアニメが好き、日本の文化やファッションが好き、そして日本語を一生懸命勉強したりしている方たちです。ですが、今はそうではない観光客も増えています。旅行雑誌やガイドブックが行くべき外国のトップに日本を挙げれば、それまで興味がなかった人も「行ってみるか」という気になるでしょうし、円安やLCCの台頭、そしてテロが世界的な問題になれば治安の良い日本を選ぶ、こうした理由が相まって、「日本に特別な興味はないけれど来ることにした」になっているのです。
日本のインバウンド対応はこれからが本番
リピーターは増えているものの、初来日の方の特徴は上記のように変わってきています。そうなると、何が起きるでしょうか? 全般的に日本への評価は厳しくなります。語学を始めとして、日本に関するベースの知識が少ないため、好きなら大目に見てくれるところも、厳しくジャッジされるようになります。そういう意味では、これからが日本のインバウンド対応の本番ともいえるのです。
それでは、まず何をするべきなのか? 一つは外国人観光客をひとくくりにしないことです。訪日客数で一番多い中国人ですが、彼らのなかには富裕層も、そうでない人もいる。欧米人の若者はバックパッカーも多いですが、贅沢旅行を楽しむシニア層もたくさんいる。ムスリムなど宗教上の理由で特別な食事の用意が必要な人たちもいる。自分たちがどのターゲットに対してビジネスをしていくのか、これを見極めることが重要です。
そして最終的には、人です。ローカルな触れ合いを重視する人を相手にする場合でも、特に日本好きではない人を相手にする場合でも、大事なのは受け入れる側の人材。今こそサービスレベルを上げるために、時間とコストを人材に投資する時代がきているのです。
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村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役
兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。近著に「インバウンドビジネス入門講座 第2版 訪日外国人観光攻略ガイド(翔泳社)」がある。