執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役
日本を訪れた外国人観光客に再訪の意向を尋ねると、「必ず来たい」が57.9%、「来たい」が35.4%で、9割を超える方が再訪を希望しています。それだけ満足度が高い証拠ですが、だからと言って不満がないわけではありません。
ある施設でアンケートをとったところ、一番多い不満は「無視されているように感じる」ということでした。日本人スタッフには無視する気はなくても、言葉の壁のせいで、「できるなら話しかけてほしくない」と思っている気持ちが相手に伝わってしまっているのではないでしょうか。
言語の問題は一朝一夕に解決するわけではありません。ただ、すぐに外国語をマスターするのが無理だとしても、外国人に対する抵抗感を少しでも減らす努力をしたり、多言語表示を徹底したりすることで、改善される問題は多いのです。
まずは英語、中国語、韓国語対策から
2015年の訪日外国人旅行者数は1,973万人を超えましたが、そのうちアジア地域が全体の84.3%を占めています。グラフを見ていただくとわかりますが、中でも東アジアは1,419万人で71.9%に達します。外国人旅行者を相手にする施設や企業の多言語化対策としては、まずは英語、続いて中国語(繁体字、簡体字)と韓国語、さらに今後は訪日が増えているタイ人のためにタイ語の導入を検討してみてください。
現状では、主要都市や主要な観光地では多言語対応ができつつありますが、それ以外のエリアではまだまだ不十分なところや、まだ始まってもいないところがあるようです。一方で、外国人旅行者のほうは、リピーターや個人旅行者の増加に伴い、日本人にもあまり知られていないような場所を訪れる人が年々増えてきています。つまり、地方だから、あるいは有名観光地じゃないから多言語対策が遅れているのはしかたがないと言っている場合ではないのです。
多言語対策も「何を伝えるか」が重要
それでは外国語で何を伝えたらいいのでしょうか。日本語でたくさんあるコンテンツが外国人にあまり発信されていないという大きな問題がありますが、なんでもかんでも多言語で展開すればそれで解決というわけでもありません。気をつけたいのは、日本人にアピールするものが必ずしも外国人の目に魅力的に映るとは限らないという点です。外国人旅行者をターゲットにするのなら、彼らの目線に立っての情報発信が大切です。
こんな例もあります。高知県が2015年9月に公開した外国人観光客を対象にした観光情報サイト「VISIT KOCHI JAPAN」では、前述の5か国語で対応するだけでなく、各言語圏に応じたコンテンツを用意しました。すると、Facebookとの連動もあって県の認知度が高まり、宿泊者数が前年度より81%増で7万人近くになったそうです。これはつまり、同じ外国人旅行者でも国や地域によっては旅に求めるものが違うということを理解した上で、ターゲットに的確な情報発信ができたからなのです。
前回のコラムでは、モノ消費からコト消費への変化に伴う、レンタカー業界の多言語化に触れましたが、ドライバーが利用する高速道路でも多言語化の動きがありました。
この春、西日本高速道路株式会社が、訪日外国人観光客の利用を見据えてウェブサイトをリニューアルしたのです。英語、中国語 (簡体字・繁体字)、韓国語での対応に加え、外国語によるおすすめの観光ルートやサービスエリア・パーキングエリアのグルメ情報も紹介しています。さらには、日本で運転する際の注意事項やルールについても図を多用して解説しており、外国人ドライバーの不安にもきちんと対応できていると言えそうです。外国人ニーズが多様化する上で、こうしたよりきめ細やかな情報発信はとても大事になってきます。
外国人観光客のニーズを把握するためには、機会あるごとに彼らにヒアリングをしたり、トリップアドバイザーなどの口コミサイトを活用したりするといいでしょう。そして、なによりも大事なのは相手に興味を持つこと。彼らがどんな文化の国から来たのか、どんなことを考え、どんなことを望んでいるのか、そうしたことを知るのが情報発信の起点となるのです。
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村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役
兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。近著に「インバウンドビジネス入門講座 第2版 訪日外国人観光攻略ガイド(翔泳社)」がある。