「ゴールデンルート」という観光業界のキーワードがあります。通常は、人気の高い観光スポットをまとめたルートのことですが、インバウンド観光においては、特に東京、箱根・富士山、京都、大阪を巡るルートのことを指します。日本を代表する大都市や観光スポットを網羅し、効率よく旅ができることから、訪日外国人旅行者から非常に人気があります。
ゆっくりしてはいられない!ゴールデンルートの過ごし方
訪日外国人旅行者の団体ツアーでは、具体的にどのようなコースを巡っているのでしょうか。
1日目 成田国際空港に到着(東京泊)
2日目 東京観光とショッピング(東京泊)
3日目 東京観光のあと、箱根・富士山方面に向けて移動(箱根・富士山周辺泊)
4日目 富士山観光のあと、名古屋方面へ移動(名古屋泊)
5日目 京都観光のあと、大阪へ移動(大阪泊)
6日目 大阪・神戸観光のあと、関西国際空港から帰国
ツアーによって若干のアレンジがあったり、もしくは、大阪から日本に入り東京から帰国する逆のルートを辿るコースがあったりするものの、おおむねこのようなスケジュールが一般的のようです。
東京観光では、銀座、浅草、秋葉原、東京タワーや東京スカイツリーなどが人気です。各観光スポットを巡る合間に、百貨店や電気店、ドラックストアなどで買い物をします。いろいろなところを回らなければなりませんから滞在時間が1時間、時には30分だけという場合もあるとか。友人や親戚から頼まれたお土産も買わないといけないので、何をどこで売っているのかなどの事前の情報収集は必須のようです。
富士山は、初めて日本を訪れた外国人が行きたいと思う日本を代表する観光地。周辺の箱根や河口湖には温泉地もあり、景観と温泉と食事、日本らしさをもっとも楽しめるエリアなのかもしれません。このあと、関西方面へ移動するわけですが、京都は慢性的にホテルが確保できないため、手前の名古屋や岐阜などで宿泊するケースも多いようです。最後に、京都で金閣寺、二条城、嵐山、大阪で大阪城や心斎橋を巡り、関西国際空港から帰国します。
滞在日数が6日間あったとしても、各都市での滞在日数は、ほぼ1日。観光と買い物とバスでの長距離移動を考えると、ゆっくりと日本を楽しむ、という感じではないのかもしれません。
地方を巡る新しい観光ルートの可能性
- 日本を代表する観光スポットが連なるゴールデンルート。訪日外国人が日本でやってみたいと思う「日本食を食べること」「買い物をすること」「景勝地を巡ること」「日本独特の文化に触れること」が一度にできて、高速道路や新幹線など交通の利便性もよいこのルートに人気が集まるのもうなずけます。しかし、日本のインバウンド観光の施策について、ゴールデンルートだけに頼ってばかりではいられません。
政府は、2016年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」を新たに策定し、これまで2020年までに訪日外国人観光者数2,000万人としていた目標を、4,000万人に引き上げました。もちろん、ゴールデンルートはこれからも重要な観光ルートであることはかわりませんが、限られた観光ルートだけに頼っては目標4,000万人の達成は難しいことでしょう。ゴールデンルートに並ぶ新しいルートをいくつも開発し、訪日外国人旅行者を日本の地方にどう分散させていくかが今後の課題となります。
ゴールデンルートの一般的な観光スケジュールでも触れたように、団体ツアーを利用する訪日外国人旅行者は欲張りですから、ひとつの都市に長く滞在するよりも、いくつかの観光地を効率よく巡ることを望んでいます。これらの要望を叶えるためには、宿泊施設、商業施設、飲食店、交通機関、行政など、同一観光圏内での連携はもちろん、近接する観光圏同士の連携もこれからより重要になってくることでしょう。「インバウンドの恩恵を受けられるのは、ゴールデンルートだけ」というのはこれまでのお話。そのインバウンドの可能性は、日本全国に広がりつつあります。