【専門家コラム Vol.1】インバウンド:あらゆる産業にチャンスがある

コラム

2016/04/20

コラム

2016/04/20

【専門家コラム Vol.1】インバウンド:あらゆる産業にチャンスがある

  • facebook
  • twitter

執筆:村山慶輔/株式会社やまとごころ 代表取締役

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、政府は当初2,000万人の外国人観光客数を目指していましたが、この春、その目標を一気に4,000万に引き上げました。これは2015年に訪日外国人観光客が1,973万人を突破し、インバウンドが上昇機運に乗っていることを確信しているからにほかなりません。インバウンドのビジネスチャンスは拡大する一方です。

6人に一人が訪日外国人!

外国人観光客相手のビジネスでまず頭に浮かぶのは、宿泊、飲食、小売、交通などでしょう。しかし、訪日外国人が2,000万人とすれば、日本の総人口(約1億2,800万人)の16%(ほぼ6人に一人)に当たる外国人が日本を訪れる計算になります。旅行者向けの施設だけでなく、日本人がごく普通に利用する施設を外国人が利用することも、もはやめずらしくはないのです。つまり、これまでインバウンドビジネスとは縁がないと思っていた産業にも、インバウンドの波は確実にやってきます。

インバウンドの波に乗ったメーカー

たとえば、その波に苦もなく乗ったといえるのがメーカーでしょう。魔法瓶や炊飯器、温水洗浄便座といった家電や、美白用品などの化粧品は、中国人の爆買いで有名になり、当然業績も向上しました。最近では、温水洗浄便座を扱うメーカーが中国での無料取り付けを行うなど、一歩踏み込んだサービスも提供しています。また、メイドインジャパンが好まれることから腕時計メーカーでは海外で製造した部品を日本で製造するなど、「日本製」の増産を図っているところもあります。
 
旅行中にインターネットで情報を検索するためには欠かせないWifi通信、また買い物の際に求められる多様な決済方法などもすでにインバウンドでは欠かせないものとなっています。

モノ消費からコト消費へ

column20160420_graph01

上記グラフが示す通り、訪日外国人のなかには繰り返し訪れるリピーターも数多くいます。リピーターが増えれば、ショッピングよりも体験に目が向くのは当然の流れです。特にリピーター率の高い香港や台湾の女性が最近注目しているのが、訪日時の美容やエステの体験。今年のトレンドキーワードに「美ンバウンド」を提唱したリクルートの調査では、アジアの女性は「日本らしい丁寧な接客」「技術力」「清潔感」を期待しているとのことです。
 
外国人旅行客が「モノ消費」から、「コト消費」に変化しつつあるというなかで、ほかにも注目されるものとして、スポーツやカラオケといったレジャー産業が挙げられます。アメリカについでゴルフ場の数が多い日本では、2015年にゴルファーに対してゴルフ場の数が供給過多に転じましたが、これを機に外国人誘客に乗り出すゴルフ場も出てきました。また、業績が停滞するカラオケ業界では、稼働率が悪い平日に来てくれる外国人旅行者はありがたい存在です。

個人旅行者に対応するサービスに注目

column20160420_graph02

2015年の訪日上位6カ国を見ると、比較的団体ツアーの多い中国、台湾でも、60%近くはすでに個人旅行者で、アメリカ、香港、韓国は個人旅行者の方が圧倒的に多くなっています。こうした状況で、レンタカーを借りてドライブ旅行を楽しむ外国人も増えてきました。レンタカー会社は、カーナビを英語だけでなく、韓国語や中国語にも対応させるなど、訪日外国人の利用を見込んで対応を加速させています。
 
これからいっそう注目されそうなのが物流です。団体旅行でしたら、大型バスに荷物を積み込んで移動できますが、個人旅行者はそうはいきません。そのため、「手ぶら観光」を促進する動きが出ています。つまり観光の邪魔となる大きな荷物を、空港からホテルへ、販売店からホテルや空港へと運ぶサービスです。日本人に浸透している宅配運送サービスを外国人旅行者にも活用してもらおうというのです。
 
また、ガイドのつかない個人旅行者にとって、言葉の問題はときとして大きな壁となりかねません。ITを使った多言語の情報発信サービスは今度さらに台頭するでしょう。
 
このほかにも、外国人旅行者が入国後にも加入できる旅行保険を扱う保険会社、地域DMOで企業、行政等とのハブとして、主体的な役割も期待されている地方銀行、多言語対応のスタッフ育成に欠かせない英会話スクールなどの教育機関、また多言語の人材を供給する人材関連業……。
 
ざっと挙げただけでもこのように多くの産業にインバウンドビジネスのチャンスが生まれているのがおわかりいただけたと思います。いまはピンとこないかもしれませんが、チャンスはすぐそこまで来ています。それにいち早く気づくためにも感度の鋭いアンテナを張り巡らせていてください。

  • 村山慶輔株式会社やまとごころ 代表取締役

    兵庫県神戸市生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校卒。大学卒業後、インドで半年間のインターンシップを経て、2000~06年、アクセンチュア勤務。退社後インバウンド観光に特化したB to Bサイト「やまとごころ.jp」を立ち上げ、現在は企業・自治体向けに情報発信、教育・研修、コンサルティングなどを提供中。インバウンドビジネスの専門家として、国内外各種メディアへ出演の他、インバウンド関連諸団体の理事を多数兼任。近著に「インバウンドビジネス入門講座 第2版 訪日外国人観光攻略ガイド(翔泳社)」がある。

ニューストップへ

  • facebook
  • twitter