日本を訪れる外国人旅行者が増えるにしたがって、取り上げられる機会も多くなった宿泊施設の不足という話題。その実態について、観光庁が2016年2月に発表した「宿泊旅行統計調査(平成27年・年間値)」をもとに、詳しくみてみたいと思います。
急増する外国人延べ宿泊者数
東日本大震災のあった2011年に一時的に減少しましたが、それ以降は、外国人延べ宿泊者数が増えています。2015年の外国人延べ宿泊者数は、およそ6,637万人泊。2014年は4,482万人泊でしたから、前年比48.1%増という急激な増加傾向にあります。
日本を訪れる外国人は、実際にどのようなところに宿泊しているのでしょうか? 都道府県別の客室稼働率を比べてみると、最も稼働率高い都道府県は、大阪府。次いで、東京都、京都府、愛知県、千葉県、福岡県、沖縄県、神奈川県と続きます。
- 東京、大阪、京都は、いわゆる日本観光のゴールデンルートと呼ばれている場所。宿泊者数が多いのもうなずけます。そのためか、東京と大阪の客室稼働率は80%を超え、京都でも70%を超えています。宿泊施設のなかには立地が悪かったり設備が古かったりして、旅行者の人気がない宿泊施設が一定数あることを考えると、東京、大阪、京都の宿泊の受け入れ体制はすでに限界に近づいているのかもしれません。
宿泊エリアとして三大都市に人気が集まっているのは例年どおりの傾向ですが、宿泊者の動きが大きく変化したエリアもありました。静岡県、佐賀県、茨城県、三重県、滋賀県は、外国人延べ宿泊者数が前年比で2倍になったエリアです。
静岡県と三重県の増加の要因は、富士山と熊野古道が世界遺産に登録され、新たな観光ルートとして外国人観光客に注目されたことが挙げられます。滋賀県と佐賀県は、それぞれ京都と福岡の宿泊施設不足の余波を受け、宿泊の候補地が周辺の都道府県に拡大した影響と考えられます。茨城県は、茨城空港の利用増加によるものでしょう。茨城空港は、東京から高速バスで1時間40分程度。都心からやや遠いという立地にありますが、中国や台湾への定期便が充実し、成田空港、羽田空港に次ぐ首都圏第三の国際空港としての位置を築きつつあります。
旅館の人気が低いのはなぜ?
次に、宿泊施設タイプ別の客室稼働率をみてみましょう。「シティホテル」や「ビジネスホテル」などのホテルタイプは全国平均で稼働率70%を超えていますが、それに比べ「旅館」の稼働率は37.8%。慢性的な宿泊施設不足が叫ばれるなか、その受け入れ先として旅館の人気は高くありません。
- 土地の食材でていねいに作られた食事を楽しみ、都会の喧騒を離れてゆったりとした雰囲気で過ごせることが旅館の魅力ですが、それが外国人旅行者にうまく伝わっていないのかも知れません。また、一泊二食が前提の宿泊プランや温泉のような共同浴場といった旅館の特徴が、日本の文化に不慣れな外国人旅行者から敬遠されている可能性もあります。
もしかしたら、地方に多い旅館は、情報発信や受け入れ体制がまだまだ不十分なところも多く、外国人旅行者の宿泊先の候補として選ばれづらいのかもしれません。これを改善するためには、各旅館からはもちろん、観光エリアを束ねる地方自治体からの情報発信を強化することが必要です。
2015年時点の全国の客室稼働率は60.5%。この数値だけをみるとまだまだ余裕があるように思えますが、訪問エリアや宿泊施設タイプに偏りがあり、ミスマッチが生じているのが現状です。現在、大都市圏に集中している日本のインバウンド需要ですが、地域活性化という点だけでなく宿泊施設不足の解消という点でも、地方を訪れる外国人旅行者を増やすことがこれからさらに重要になってくるでしょう。