国内有数の美術コレクションに
親しんでもらうために
皇居のほど近くに建つ東京国立近代美術館は、日本で最初の国立美術館です。近年の外国人観光客の急増に伴い、同館が意識していたのが作品解説文の多言語化です。すでに英語には対応済みでしたが、ほかの言語にも対応する必要性を感じていました。そんな中、できるだけ早く、かつリーズナブルにできないかと相談を受け、「Catalog Pocket」を使った仕組みをご提案したのが大日本印刷株式会社(DNP)です。導入までの詳細や、今度の展望なども交え、それぞれの立場から意見を伺いました。
積極的な海外広報で外国人観光客が増加
- 東京国立近代美術館
美術課長 大谷 省吾 様 -
当館は明治から現代までの日本美術の流れを、いつでも観られるのが最大の特徴です。絵画や彫刻など約13,000点もの作品をコレクションしており、そのうち約200点を所蔵作品展「MOMATコレクション」で展示しています。
外国へのアプローチは以前より積極的に行っており、プレスリリースを発信したり、当館を含む周辺施設の紹介を東南アジアのテレビ番組で放映してもらうなど、海外広報に取り組んできました。その甲斐あってか、外国人観光客の数は平成27年度26,383人、平成28年度34,186人、平成29年度48,544人と年々増加。多い日は、来館者の30%ほどが外国人というときもあります。
そうした状況から、すでに英語による作品解説は行っていました。しかし、ほかの言語にも対応すべきという課題意識を持っていたのに加え、政府からも「早急にインバウンド対策を強化するように」との通達があったのです。時間と費用に制約があったものの、納得いく作品解説にしたかったため、まずはネイティブのナレーターを起用し、スタジオで収録に挑戦。するとやはり膨大な時間と費用がかかり、とても現実的ではありませんでした。
それでも品質にはこだわりたかったので、長年お付き合いのあるDNPさんに相談しました。いくつかご提案をいただいた中で一番目に留まったのが、モリサワさんのMCCatalog+とCatalog Pocketの仕組みを使ったご提案です。このツールは音声読み上げ機能が付いており、視覚だけでなく、聴覚にも訴えることが可能。これなら海外の方に、より効果的に情報を提供できると感じて採用を決めました。読み上げの精度には多少不安はありましたが、DNPさんがモニタリング調査をした結果、ネイティブの方から「無料サービスなら充分に許容できる範囲」という声をいただいたとのことで、安心できました。
アイデア次第で広がる可能性
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Catalog Pocketを使った多言語サービスは、2017年5月、まずは中韓ユーザー向けに開始しました。ところが、当時はWi-Fi環境が整っていなかったんです。ですからタブレットを300円で貸し出して対応していました。そして2018年6月にようやくWi-Fiが全館に整備され、スマートフォンでの無料閲覧が可能に。それと同時に中韓日英4言語によるサービスをスタートしました。無料になってからは、利用率も伸びています。
Catalog Pocketには音声読み上げ機能だけでなく、翻訳機能も搭載されています。しかし美術分野は専門用語が多いため、その機能はあえて使わず、作品解説の翻訳は当館が担当しています。実際に作業に当たっているのは、日本で美術史などを学んでいる留学生の方たち。内容は悪くないようですが、数名で手分けしているため品質が安定しません。そこで編集者、校閲者を立てるなど品質維持に努めています。今後は翻訳の段階から一括してお願いできるようになると尚いいですね。
それから、Catalog Pocketは展示に合わせていろいろ内容を変更できるなど、自由度が高いところもポイントです。当館では企画展も行っていますので、いろいろと趣向を凝らせるのがいいですね。実際に使用している外国人の方からは「見やすい」「解説があることでより興味を持って観られた」など、うれしい声をいただいています、また、滞留時間も長くなっていて、日本の近代美術の系譜をいつでも振り返られるというメリットを、海外の方々にも享受いただいているのではないかと思います。
表現力はもちろん、「文字の美しさ」に感動
- 株式会社DNPアートコミュニケーションズ
コンサルティング営業部 黒岩 晶 様 -
DNPは2006年より、誰でも気軽に芸術文化に触れてもらいたいとの主旨のもと、「DNPミュージアムラボ」という文化活動を行っています。これまでルーヴル美術館、フランス国立図書館、フィンランド国立アテネウム美術館とコラボレーションを行ってきました。東京国立近代美術館さんとの取り組みも、このDNPミュージアムラボの一環としてスタートしています。外国人の方への鑑賞環境をより良くし、日本有数の近代美術コレクションに親しんでいただくことが狙いです。
多言語化のお話を東京国立近代美術館さんからいただき、目指されている方向や必要とされている機能を伺いました。さまざまな選択肢を検討した結果、モリサワさんのCatalog Pocketが最適だと思ってご提案しています。Catalog Pocketは多彩な機能を搭載していますが、特に素晴らしいと思うのは、音声読み上げの辞書登録機能です。美術の専門用語や作家名など固有名詞の読みを一語一語細かに修正・蓄積できるのは、品質を保つ上で欠かせないものだと思っています。
もう1つ、Catalog Pocketの大きな魅力として、文字組みの美しさがあります。さすがフォントのモリサワさんのシステムだけあって、テキストの美しい表示に感動しました。「美」と出会うための情報提供ですから、最初の提案のときからその点は特にお伝えしていました。実は音声読み上げのクオリティーについては、当初は確信を持てずにいましたが、モニタリング調査で中国語・韓国語ネイティブの方から一定の評価をいただき、美術館での実践を経て、現在は十分な品質を備えていると認識しています。Catalog Pocketの更なる発展が、美術館の鑑賞環境の可能性をより一層広げてくれると、私たちも非常に期待しています。
- 東京国立近代美術館
- 1952年、日本初の国立美術館として日活本社ビルを改装して開館。日本画、版画、水彩、彫刻など、13,000点を超えるコレクションを収蔵している。
- 〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
- 東京国立近代美術館 webサイト
東京国立近代美術館 カタポケコンテンツ一覧
- 大日本印刷株式会社
- 印刷物に加え、電子デバイス、デジタル情報など、幅広い分野で多様な製品やサービスを提供する総合印刷会社。2006年より、誰でも気軽に芸術文化に触れてもらいたいとの主旨のもと、「DNPミュージアムラボ」という文化活動を行なっている。
- 〒162-8001 東京都新宿区市谷加賀町一丁目1番1号
- 大日本印刷株式会社 webサイト